17栄養 植物にとっての鉄

17種類の栄養素から鉄についてご紹介します。

 

・鉄の役割

光合成に必要な葉っぱの葉緑素を作る成分で、ミネラルの一種です。

・環境

アルカリ性の土壌では鉄が溶けにくいため、鉄不足になりがちです。

また、水耕栽培では水が土の成分を溶かして下層へ運ぶことで(溶脱作用)、栄養不足になることがあります。

土壌内の鉄は水に溶けにくい三価鉄と呼ばれる形態が多く、イネ科等以外の植物は吸収できません。

一方、二価鉄と呼ばれる形態は可溶性で植物が吸収できます。

アルカリ性の土壌では鉄が溶けにくい状態で三価鉄の状態が多い為、より鉄不足に注意が必要になります。

・欠乏症

葉っぱの色が薄くなる場合は鉄分不足が疑われます。

元気に植物が成長する為には光合成が必要で、葉っぱ緑色が重要な鍵になります。

鉄分が不足するとクロロフィル(葉緑素)と呼ばれる成分が不足した結果、光合成が抑制されてしまい、植物の元気がなくなります。

・土壌中の鉄に関する研究

2011年に東京大学農学生命科学研究科によると、アルカリ性の土壌で鉄がほとんど溶けていない環境でも、植物の根っこが鉄を溶かして吸収している旨の内容が発表されました。

発表内容

”鉄はほぼ全ての生物に必須の元素ですが、人間をはじめとする動物は植物が土壌から取り込んだ鉄を栄養源としています。土壌中に鉄は大量に存在しますが、水に溶けにくくなっています。特に土壌がアルカリ性である場合、鉄がほとんど溶けていないため、植物は鉄を吸収できずに鉄欠乏になります。土壌中の溶けにくい鉄を吸収するために、イネ、ムギ、トウモロコシなど主要な穀物が属するイネ科の植物は、キレート物質の「ムギネ酸類(注1)」を根から分泌し、土壌中の鉄を溶かして「ムギネ酸類・鉄」として吸収しますが、これはキレート戦略と呼ばれます。「ムギネ酸類」は、日本人研究者の高城成一博士(1925~2008)によって発見されました。1959年の最初の報告の後、高城先生は長い年月をかけて分泌量の多いオオムギからこの物質を精製し、1978年に化学構造の決定がなされました。

私達は、長らくイネ科植物の鉄栄養について研究を進め、ムギネ酸類生合成経路の各ステップを担う酵素の遺伝子の単離を始めとして、これらの酵素群の遺伝子発現(注2)を制御するシス配列や転写因子など、イネ科植物の鉄獲得に関わる分子機構の全容を解明してきました。この中で最後まで未解明であったのが、ムギネ酸類を土壌中に分泌するために働くトランスポーター(注3)の同定でした。残された最大のターゲットとして、国内外の多くの鉄栄養研究者がこのトランスポーターの発見に向けてしのぎを削っていました。私達は、今回世界中の他のグループに先駆けて、このムギネ酸類分泌トランスポーター、「TOM1」をイネとオオムギから発見することに成功しました。この発見により、高等植物の鉄獲得の分子機構において唯一欠けていた最後のピースが解明され、ムギネ酸分泌と鉄吸収の全貌が明らかになりました。

私達はこれまでに、植物の鉄栄養に関わる遺伝子を利用して、アルカリ土壌における鉄欠乏耐性の作物を作出することに成功しています。TOM1遺伝子を利用することにより、さらに望ましい形質を持ったアルカリ土壌耐性の作物を作り出すことができると考えています。また、WHO (世界保健機関) の報告によると世界で最も多い人間の栄養障害は鉄欠乏で、世界人口の半分、約30億人以上が鉄欠乏性貧血症に悩まされています。土壌からの鉄の吸収は、農業生産を支える植物の生育にとって重要であるばかりでなく、これを食糧とする人間の健康にとっても食品としての栄養価を左右する重要な事項です。TOM1遺伝子や、これまでに私達が発見してきた植物の鉄代謝に関わる他の遺伝子を組み合わせることにより、鉄分が豊富な高い栄養価の食品を作ることにも大きく貢献できると考えています。” *1

17種類の栄養素から鉄についてのご紹介でした。

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*1 Phytosiderophore Efflux Transporters Are Crucial for Iron Acquisition in Graminaceous Plants.